地をはう大学院生→ポスドク→国立大特任教員→私大専任教員

はてなダイアリーから引っ越ししてきました。昔の記録です。

地方は日本の「課題先進地」

田舎の不動産の広告を見ていると、一昔前なら考えられなかったような価格で中古の不動産が売りに出されていたりする。真っ当なマンションが金食い虫の古いリゾートマンションみたいな価格で投売りされているのをみると、わずかずつとはいえ人口が減少していくということがいかに恐ろしいことなのか、なんとなく想像できるような気もする。
 
最近、日本は「課題先進国」だ、という言説が流行っている。先進国の中で最初に高齢化を迎えたりと、様々な課題に対し、世界で最初に直面するフロントランナーだというのだ。そういう意味で言えば、日本国内でもさらに先を行っているのが、地方なのである。地方は、将来の日本(東京ですら)が直面するであろう課題が山積している、「課題先進地」なのだ。
地方では人口が減少し、人材も産業も競争力のある都市に吸い出されるようになりつつある。人材の流出に関して言えば、自分の同級生を考えると、なんとなく想像が着くというもの。田舎の公立学校では優れた教育を行っている。たとえば…少なくとも自分が通った市立小学校では、工夫に満ちたよい教育を受けたと思う。そうして地方が育てた人材がいま何をしているかといえば、少なからぬ割合が都会で働いている。まあ私みたいにあまり出来のよくないのは地方都市でくすぶっているわけだけど。さらにそこでも、私がいるような地方都市の大学、…地域の財界からも寄付をたくさん受けている…、から巣立った優秀な人はどんどん東京や米国といった、遠くに行ってしまう。産業だってそうだ。構造的に企業が東京に集まるようにできてしまっているために、地方で育てた企業も、東京に行ってしまう。
もちろん地方の人々も手をこまねいているばかりではない。産業を興し、自立するために、様々な努力をする。将来を見据えたインフラの整備もそのひとつだ。ところが、である。残念なことに、都市部の人々、とくに東京の大マスコミはこういった努力を見下したような報道をすることが多い。必要ない、無駄遣いだ、そういったネガティブキャンペーンが連続する。こういった問題でいつも出てくる、東京と地方の温度差は、恵まれた環境にいるか、いないか、国に親方日の丸で世話してもらえるか、もらえないか、こういった違いが大きいのではないかなぁと思う。東京であれば、国があらゆるインフラを整備してくれて、企業も顧客も、集積につられて次々にやってくる。地方は違う。駅ひとつ作るのにだって、市民で寄付金を募るのだ。駅舎の改修や、公共の施設の建設でもそう。産業の振興のためには、官民あげて売り込み、誘致、さまざまな運動をする。口をあけて待っているだけでは何も来ないからこそ、身銭を切るし頭も体も使う文化が生まれる。
話は戻って、確かに東京は地方よりも構造的に有利な立場であるとはいえ、世界の諸都市と比べてどうだろう。ビジネスの立地でいえば、なぜ(香港やシンガポールではなく)東京でそれをやるの?という問いかけは当たり前のものになりつつある。東証に上場している海外の企業なんてほとんどないし、銀行は、香港のオフィスで指揮され、ロンドンの会社に随分な運用報酬を取られつづける投信を一時の手数料のために一生懸命売っている。企業買収するときは、ニューヨークの顔色を伺いながら仕事する投資銀行家に高いフィーを払ったりするのではないですか…。研究の世界でも、中国と日本では予算の桁が違ったり…。専門職も、今のままなら、なにも日本に義理立てしなくても、待遇のいい上海やシンガポール、ボストンといった都市で働けばいいじゃない、という人がこれからどんどん出てきても不思議ではない。そんな変化の中で、必ずしもいい立地ではないけれど、東京でがんばろう、日本を盛り立てようと思う人は、地方でがんばる人の気持ちがわかるんじゃないかなぁ。中央の政府財界の人も、わざわざ斜陽の日本を盛り立てようとしている。地方の気持ちと同じじゃないのかなぁ。
地方空港の建設でも色々あった。地方どうしで人の移動があることを考えない、ほとんど小中華思想といっていい批判すら散見された。ふたを開けてみたら、なかなか便利で、主要路線は高い搭乗率。なにより空港が呼び水となって生まれた航空会社は、各地で撤退する大手航空会社の路線を補完しつつある。地方が立ち上がることで、全国に利益がもたらされているといってもいい。もちろんくだんの航空会社もいまだ黒字化していないし、武器である小型機を今後大手が導入していくことを考えたら、政治力の低い新興エアラインが今後どうなるかはわからない。空港だって、今後情勢が悪化すれば廃港になることもあるだろう。それでも、東京の人は、自立のために頑張る地方を見下すだけではなく、暖かく見守ってほしい。地方で集めた税金や、都市が地方の犠牲で栄えている分は、大目にみてあげてほしい。頑張る地方の姿は、未来の自分たちなのだから。
そして地方はきっと、いい実験台になる。諸外国みたいに、地方で首長として経験を積み、成功した人材が国政を動かすようになると、いいサイクルができるかもしれない。そういえば民間企業なら子会社で経験を積んだあとに本体のトップになるコースも一般的なような…。と、そんなことを、年末年始に田舎の空気を吸いながらふと思ったのだった。